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プレゼンテーション in English

2017年07月03日

先日、良いご縁があって米国商工会議所(ACCJ)で講演をする機会をいただきました。講演の大きなテーマは日本におけるB2Bセールスということで、内容的には、私が最近あちこちで盛んに唱えているにも関わらず一向に注目される気配のない「放火魔・警察官」理論です。かいつまんで説明いたしますと、日本の意思決定モデルというのは「空気」に支配される「和」形成にその本質があるので、決裁権限を持っている役職者をターゲットとして営業を行ってもあまり成果は期待できない。それよりも、商品購買について前向きな「空気」の醸成に決定的な役割を果たす火付け役たる「放火魔」と、「空気」を「和」へと昇華させるクローザーたる「警察官」を根気良く特定し、これを攻めることが重要である、というものです。

 これを英語で、主としてアメリカ人からなる30人ほどの聴衆に向けて話すわけです。私も英語の経験や勉強についてはかなり年季が入っているのは事実で、契約交渉や会社マネイジメントなどを英語で行うことについてはさほどの不自由は感じません。それでもこの内容を英語で1時間弱プレゼンを行い、その後、米国人流の聞きたいことは機関銃のように聞きまくる質問攻撃にさらされるというのは、実は初めての体験です。四半世紀ほど前、米国に留学した時の話ですが、授業中に突然、世界を代表する国際法の教授に質問されたことがありました。その時、「そういう問題は重要ではないと思う。」と答えたかったのを”I don’t care.”と言ってしまって、その教授から「そのような無気力な回答を私は好まない」といたく不興を買ってしまったことが、今でも少々トラウマで残っています。そしてそのトラウマを克服すべく諦めずに英語を勉強してきた結果、やっとリベンジの機会を得た感もあり、今回の講演には必要以上に力が入ってしまいます。

更に私には、人前で話す時に自分に課しているハードルがあります。それは、「参考になりました」とか「勉強になりました。」とは絶対に言われてはならないということです。そのようなコメントというのは、本当はつまらなかった話に対してのお世辞的要素が入っている場合が多いと思うからです。また、私としてはスピーカーと聴衆の関係は、先生と生徒という上下関係は望ましくないという思いがあります。そうではなく、両者の関係は対等な対話者の関係でなければならない。それがうまく行った時に多くいただけるコメントは、「面白かった」「楽しかった」「インスピレーションがあった」などになります。そしてその成功と失敗のメルクマールは、ズバリ“どれだけ笑いが取れるか”というところにあります。私が目指すところはここです。

 この目標は日本語で話す時でも達成は中々に難しいのですが、果たして英語でできるのか。まずは練習ということで英語ネイティブを含む社員数名に協力してもらいリハーサルを行ったところ、結果は惨憺たるものでした。まず、いつもの日本語で話す時と違い、いざ喋り出してみると思ったように言葉が出てきません。自分が本当に言いたいことと自分が発している言葉に大きなギャップがあり、それがまるで頭の中で言語中枢に鎖をかけているようで、まったくリズムとスピードに乗れない。気分もどんどんダウンして疲労感ばかりが募ります。早く終わればいいのに。そういう気持ちばかりが膨らみ、予定時間を半分以上残して終了。笑いのポイントとして用意していた箇所でもすべて、誰一人クスリとも笑いません。それどころかみんな、正直何を話しているのかわからないという顔をしています。それでも中には、どこがわかりにくいかを冷静に分析してくれる人もいて、そのあたりを考慮に入れて作戦を少し変更してみました。それでもこれで大丈夫という状況には程遠く、「まあ、本番になれば気分もアップするから口も回るさ」とあまり根拠のない自己暗示をかけるくらいが関の山という状況でした。

そして迎えた講演当日。緊張していないと言えば嘘になりますが、プレゼン資料はかなり作り込んだので、まあ、大丈夫なような気もします。それにたとえ大丈夫じゃなかったとしても、きっと何も悪いことは起きないだろう。そんなことを考えていると、ふと横で随行してきてくれている社員が「緊張して食事が喉を通らない。」と言います。確かに彼女は、ACCJが用意してくれた食事に殆ど手をつけていません。彼女にお願いしていることはパソコンを操作して私の話の進行に合わせてスライドを先に進めてもらうことですが、そう言えば、リハーサルの時から我々はまったくタイミングが合っていませんでした。「トークとずれちゃって、プレゼン失敗したらどうしよう…。」

 これを聞いて、なぜか私は急に気持ちが落ち着いてきました。主役の私の方は、緊張しながらも一応何はともあれ食べているのですが、サポート役の方が緊張していてろくに食べられない。どこかこの状況がおかしくもあり、また自分が一番緊張しているわけではないという妙な安心感もあって、ふっと肩の力が抜けるのを感じたのです。

いざ、本番。なんと私の最初の一言目から会場は爆笑の渦に包まれました。後ろの方に座っていた人が1人2人と立ち上がって、笑いながらスライドをもっとよく見ようと前に出てきたり、聞いている姿勢などに少々お行儀の悪さはあるものの、私の話に対して日本人相手の時とは比較にならない食いつきぶりです。私の方も一気にアドレナリンが出ているのか、面白いように口が回ります。笑いも用意したところは勿論、各所に入れたアドリブもすべて大当たりで、会場は興奮の坩堝と化している。少なくとも私にはそう感じられました。スクリーンに投影されているスライドの方は結局あまり見なかったので、トークについてきているのかどうかはよくわかりませんでしたが、大筋合っていたようです。ただ、ハイになっている私がスクリーンの前に立ってしゃべるので、肝心のスライドはほとんど隠れて見えていなかったようですが。

 更に、本編のプレゼンが終わりQ&Aに入ると、質問は途切れることなく続いて、30問は答えた気がします。そして驚いたのは、日本人でもわかりにくいテーマであるにも関わらず米国人達が実に正確に私のプレゼン内容を理解していたということで、質問のすべてが核心をついたものでした。私のプレゼン内容は、日頃から米国人が、日本におけるB2Bセールスはなぜこうなってしまうのかとフラストレーションを覚えながらも、理由がわからず悶々としていた部分にズバリ刺さるものだったようです。その結果、目標通り「楽しかった」「面白かった」「インスピレーションをもらった」というコメントがたくさん寄せられ、「記事を書かせて欲しい」とか「本を出すべきだ」との言葉もいただきました。

今回、久々に「挑戦」して良かったとストレートに思える幸せな経験をさせてもらいました。そしてやはり、もっともっと英語が上手くなりたいと心から思ったのでした。


代表取締役CEO  奥野 政樹

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