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保険証詐欺

2024年11月01日

 ある朝、リモートワーク中に自宅の固定電話が鳴りました。取らない方がいいのかと思いつつも、やはりせっかくかけてきてくれているものを無視することで有益な情報をミスするのも悔しいので、いつも通り応答しました。すると自動音声でいきなり、「保険証医療局です。オペレーターとお話したい方は、1番を押してください」とのこと。他に何の選択肢もなく、いきなり「オペレーターと話したい方は」というのも何か変だなとは思ったのですが、他の自動音声の家電よりは効率がいいな、と少々好感も持ちつつ1番を押すと、若くどこか安っぽい声の男が電話口に出てきました。   

男「なんでしょうか?」
私「なんでしょうかって、かけてきたのは、そちらですよね?」
男「お名前は?」
私「奥野政樹ですけど。」
 「少々お待ちください」と言って、一旦電話を保留すると程なく男は戻ってきました。
男「豊島区に在住の奥野政樹さんですよね?」
私「そうですよ。」
男「住所は、豊島区***********で間違いないですか?」
私「いや、それは前に住んでいたところで、随分前に引っ越して今はその近くの別のマンションに住んでいます。」
男「あー、そうなんですか?引っ越したんですね。」

 この時点で正直、なぜ保険証を取り扱う公的機関が20年もの間、私の現住所情報を更新できていないのか、なんか変だなという違和感  はありました。しかし、男は不思議に現住所を確認してきませんでした。これでかえって情報収集目的のスパム電話でもなさそうだな、とも安心してしまい、会話継続となりました。

男「実はですね。8月の上旬なのですが、奥野さんの保険証で、極めて強度の高いXXXXという睡眠導入剤が仙台の○○〇〇メンタルクリニックで処方されていましてですね。」
私「はあ。」
男「いや、別にこの薬自体の処方には問題はないのですが、処方期間が問題でして。本来30日分しか処方してはいけないところ、60日分処方されているのです。」
私「いや、それは身に覚えないですね。」
男「ご家族で処方を受けた方はいませんか。確認のため、直接お話を伺いたいのですが。」
私「はあ、家族関係ないですよね。使われたの私の保険証なんでしょう。」
男「直接確認がしたいのです。」
私「今みんなリモワで仕事中だし、一人学生だし。まあ、いいか。ちょっと待って。」
 そう言って男を待たせておいて、一応忙しそうな家族に聞いて回ったが、誰も身に覚えはないとのことでした。
私「誰も知らないそうですよ。」
男「直接話を聞きたいのですが。」
私「だから、なぜ?これ以上必要ないでしょう。で、結局、なんなんですか?多額の薬代でも請求されるんですか?」
男「いえ、そのようなことは一切ございません。」
 ここだけ、やけにはっきりしている。
私「じゃあ、なんなの?」
男「今日中に警察に被害届を出していただきたいのです。」
私「今日中?今日はちょっと忙しいので無理ですね。」
男「今日中に出していただかなければ、保険証の利用は停止となります。」
私「はあ?なんでだよ。それで、どうなっちゃうわけ。」
男「医療機関にかかった場合、10割負担となり高額になります。」
私「何言ってんの?あんた?そんなの、困るだろうが。あなたの言ってること全然わからないよ。」
男「強制はしていません。」
私「今日中に被害届を出せば、そうならないわけ?」
男「なりません。」
私「で、今日被害届出さなきゃ、いつまで保険証使えないわけ?」
男「1年です」
私「何言ってんの?あんた。そんなのフェアじゃないでしょうが。とにかく、そういう対応はおかしいんだよ。民間じゃ許されないよ。それ。うちのNOCにもそういう対応は駄目だって、いつも言ってる。大体、マイナ保険証とかいって、この間使ってみたけど、スーパー・インコンビニエント。わかります?つまり不便なのよ。どうせあそこから漏れたんじゃないの?」

 段々と頭に血が上っていく感情的な自分と、カスハラってこういうようにして起きるんだろうなと冷静に状況を分析する2人の自分が同居していました。

男「ですから強制はしていません。」
私「でもやらなきゃ保険証使えなくなっちゃうんだろうが。困るじゃん、それ。病院だって結構行くんだよ。」
男「あ、被害届は仙台で起きた事件なので、仙台中央警察署に出してもらう必要があります。」
私「はあ?私は、被害者なわけだよね。なんであんたからそんな脅しを受けなきゃいけないわけ?そもそも、あんたどこの誰だっけ?」       男「保険証医療局の二宮です。」
私「厚労省か?」
男「厚労省です。」
私「霞が関か?」
男「いえ、新宿です。」

 ここで男が霞が関だと答えていれば、私も怪しさを再認識していたかもしれません。しかし、ここで妙に反発してきたので、なんかホ ントっぽいなと思ってしまいました。

私「ちょっと、この電話電池切れるから、携帯に電話してくれます?」
と、不覚にもわざわざこちらから携帯番号を教えてしまいました。

男「わかりました。かけ直します。」
私「あと、あなたの電話番号と、分かれば仙台中央警察署の電話番号教えてもらえます?」

 男は2つの電話番号を素直に教えてくれました。電話を切り、携帯電話への折り返しを待つ間、会社のstaff MLに「事件発生」と題したメールを送り、「すみません。……..ということで今から仙台に行かなければならないかもしれず、午後の予定は全部キャンセルしないといけないかもしれない」と送ると、私のセキュリティ感覚を今一つ信用しておらず、はまらないように注視してくれている営業部長から予想通りメールが入りました。「それ、おかしくないですか?詐欺ではないですか?」私は、待っていましたとばかりに、「いや、新宿っていうし、ホンモノっぽいのよ」と返信。そうこうするうちに二宮氏からの折り返し電話が来ました。

私「つまり、今日中に仙台行けってのね。もういい。あなたの言うことはわかりました。」
男「家族の方々と話をさせてください。」
私「だから、それ必要ないでしょう。仙台行けばいいのね?」

 この時点で私はもう仙台に行く気満々でした。親戚もいるし、まあ、たまには旅行もいいか、そんな気分でした。すると男は意外にも、「上司に仙台に行かなくてもいい方法がないか、確認して連絡します」と頼んでもいない提案をしてきたのです。私は、「あ、そう。じゃ、午前中に連絡くれます?」と依頼するとわかったとのこと。なんだよ、最初からそう言えよ、と思いながら再度パソコンに向かいメールを開くと、事業戦略・技術の両バイスプレジデントから「こんなのがあるみたいですよ」となにやらWEBのリンクが送られてきました。そのリンクには「保険医療局などを名乗った詐欺電話にお気を付けください」との警鐘が鳴らされていました。なにかモヤモヤが晴れたというか、不信が確信に変わった爽快感がありました。それでも一応最後まで調査し警察に届けようと、男からもらった保険医療局の番号に電話をかけると、それは東京都庁の代表電話でした。受付の方がおっしゃるには、「最近その問い合わせは大変多い」とのことでした。

 上司と話しての解決策の電話がかかってきたらなんと言ってやろうか、と考えながら昼を待ちました。調べたところによると、どうやらこの後弁護士やら裁判官まで出て来て、お金を払えば解決できるという流れになるようで。その話にも少し興味が湧いてきましたが、男は2度と電話してきませんでした。おそらく私のカスハラ反応が、最後まで持っていける人のものとは違い、その「上司」から「そいつはもうやめとけ」と言われたのではないでしょうか。代わりではないですが、昼頃、書留が受け取られず再送するので住所を確認したいという、こちらは大いに身に覚えのある電話が来ましたが、トラウマから、「すみません。たった今、詐欺られたばかりで、ちょっとこちらから住所は申し上げにくいんですよ」となってしまいました。

 帰りがけ、駅前の交番に一応届けましたが、お巡りさんはあまり相手にしてくれず、「あーそれ最近多いんですよね。今度かかってきたら無視していいですから」とのこと。「これが折り返しかけてきた犯人の電話番号」と着信履歴を見せましたが、「あー、海外ですね」とのことで、捜査する気もなさそうでした。

 我ながら馬鹿だなあとも思いましたが、しかし、あの二宮なるカケコもこれくらい真剣にカスハラされたのは初めてだったのではないでしょうか。私にハラスメントされる度にかなり感情的になって怒っているようでした。もしかして、改心なんかしてないかなあ、などと、折角の時間が無駄になっていないことを願ってしまう自分がまだいます。


代表取締役 CEO 奥野 政樹

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