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KPIが世を堕落させる
2025年04月01日
ちょっと信じがたいことが起きましたので共有したいと思います。当社では、今欠員補充のための採用を行っています。当社の採用方法というのは、こうです。まず、人材紹介会社何社かにお声がけして、当社が開催する会社説明会に参加者を送り込んでいただく。この段階で選考はしません。会社説明会に参加した後、採用面接を希望する方は、各自その人材紹介会社を通じて応募いただく。もちろん採用、入社ということになれば人材紹介会社に紹介料をお支払いします。以前は、人材紹介会社から紹介された候補者を一人ずつ面接していたのですが、これだと1名採用するのに平均8~9カ月くらいかかっていました。それを今の方法に変えてからは2カ月もあれば3人くらいは採用できるようになりました。また、人材の質も格段に上がった。採用というのは、会社が採用する社員を選ぶというよりは、お互いに相性を確かめ合うお見合いみたいなものだと思います。まず、会社説明会で当社のことを包み隠さず伝える。その上で、当社に入社したいという候補者と面接を行う。その方が、人材紹介会社がデータベースからピックアップしてくる候補者をいきなり面接するよりもマッチングする確率ははるかに高くなるということでしょう。
ということで、今回も2つの人材紹介会社に会社説明会参加希望者を募っていただきました。すると、ここのところはあまり参加者を送り込んでいただけていなかった大手の人材紹介会社から、「25人ほど参加希望者がいるのですが、多過ぎるのでこちらで少し選考した方がいいですか?」というお知らせがありました。それはうれしい驚きで、「いや、選考はこちらでやりますので希望者全員お願いします」とお答えしました。
翌日、「参加希望者10名の履歴書をお送りします」との連絡がありました。「あれ、なんか減ったな」と思いつつも10名は大人数です。「いや、まだ選考ではないので、履歴書は送らないでください」とお答えしたのですが、「履歴書を送らないとプロセスが進まない」のだそうで、頼んでもいない履歴書が10人分と、こちらとしては全く興味のない推薦状が送られてきました。
説明会前日になり、今度は、「明日は3名参加します」と連絡がありました。「あれ、また減ったな」と思いましたが、1社から3名はまだかなり多い方です。もう1社からは2名参加ということなので、合計5名。これだけいれば、今までの経験から確率的に1名は良い人が採用できます。
そして説明会当日、午前中にその人材紹介会社から参加予定の1名から、「今日参加できなくなった」と直接連絡がありました。「分かりました。人材紹介会社の方にも連絡しておいてくださいね」とお願いすると、ほどなく人材紹介会社から、「本日2名となりました」との連絡が来ました。
説明会本番、その2名は、待てど暮らせど来社しませんでした。欠席の連絡もありません。もう1社の紹介の方は 2名、定刻にいらっしゃったので説明会自体は開催でき、当社としては特に問題もないのですが、正直この結末に社内一同、唖然という感じでした。
翌日、その人材紹介会社から事情説明と謝罪の連絡でもあるかと思いましたが、その後音沙汰もありません。こちらとしても別に苦情を言って得るものもありませんので何もしていませんが、社内には大きな驚きが広がっています。私がいつも、デジタルやらシステムやらで世の中のレベルは大きく下がっていると言っているのを、年寄りの過去自慢と受け取っているであろう者達も、さすがに私の言うことに現実味を感じ始めたようです。
この人材紹介会社、以前は当社が採用する社員は殆どがここから紹介いただいた方でした。それが、ある時からピタリと止まりました。それは、この会社が仕事のやり方を大幅に変えた時からです。KPI評価の導入です。キーパフォーマンスインデックスによる評価。つまり、最終成果を出すための業務プロセスを細分化し、プロセスごとに数値目標を設定して、その達成度合いを評価するというやり方です。この人材紹介会社であれば、電話数、履歴書送付数、面接設定数などがKPIとして設定されているのでしょう。これをやると、成果に結びつくはずもない質の低いパフォーマンスの数だけが増えていき、社員のモラルが低下する。そんなことは明らかなのですが、多くの企業が今、これをやっています。理由は簡単。評価が客観的になり、評価者が責任を問われるリスクが下がるからです。
きっとこの人材紹介会社の内部では、今月末にこの社員と上長との間で、「君は最終的な成果は出なかったけど、履歴書送付は目標値を大きく超えているから必ず成果は出るよ」というような1-on-1がなされるのではないでしょうか。被害にあったこちらとしては、正直腹立たしいです。このようなやり方で成果など出るわけがありません。それどころか、当社に多大なる困惑をあたえている。不要な個人情報を10人分も意図せずもらってしまい、迷惑この上ありません。
なお、説明会に2名の参加者を送り込んでいただいたもう1社の人材紹介会社ですが、こちらは外国人の人材紹介に特化した中小企業です。説明会に当社担当の方も参加していただき、可能な限り、その後の選考面接にも参加していただいています。そうすることで、当社がどういう人材を求めていて、それをどのように選考するかをよく理解押していただいている。だから紹介いただく人材の数は少なくても質が他社と比べて圧倒意的に高い。実情は、過去10年、当社が採用する人材の殆どがこの会社にご紹介いただいた人材なのです。
KPIをやっている会社とやっていない会社、どちらが成果が出るか。これだけでも分かっていただけるのではないでしょうか。KPIは世を堕落させます。なんとか撲滅したい、その思いをさらに強くした出来事でした。
代表取締役 CEO 奥野 政樹
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