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解雇規制緩和

2024年10月01日

 自由民主党の総裁選で解雇規制の緩和を論点にあげている候補者がいます。「え、なんで?解雇規制の強化じゃないの?」と思われた方も多いのではないかと思いますが、私は「やっとか」という思いが強いです。日本における解雇の難しさは、世界的に見て、明らかに異常。これは行き過ぎであり、弊害も大きいのは明らかだったのですが、誰も怖くて声を上げられなかった。いわゆるタブーというやつですね。そこに思い切って切り込んだ候補者には敬意を表します。ただ、論点はまだ些かずれている。焦点が当たっているのは、経営不振時の解雇、いわゆるリストラなわけですね。現行法制の下では、リストラが許されるためには4つの条件を満たさなければならず、これが確かに諸外国の状況に比べると相当に厳しい。しかし、経営が不振なわけですから、リストラしなければ会社が潰れてしまって結局全員リストラになってしまうので、なんだかんだ言って落ち着くところに落ち着くことも多い。それよりも問題が大きいのは、不良社員の解雇が難しいということなのです。

 不良社員には私の分類では2種類あります。まず1つ目が、破廉恥社員型。暴行、傷害、営業妨害、名誉棄損、侮辱、盗撮、ハッキング、痴漢、窃盗、横領。こうした犯罪、或いは犯罪紛いの行為に及んでおきながら、反省の一つもなく自己を正当化する。こうした社員でも現行の法制下では一発解雇は極めて難しい。まずは注意を施し、再犯を犯す度に注意の度合いを上げ、更には減給、出勤停止などの懲戒を行うという段階を踏まなければ解雇はできないのです。大きい会社では、こういう社員は異動でもさせて組織の中で存在の希釈化を図ることも可能ですが、異動のためには昇進が必要などということもあり、とんでもなく不合理な結果となってしまう。これが中小企業となると、異動などということもできず、こうした破廉恥な社員の実態をわかっていながら、他の社員は業務を共にせざるを得ないということになります。その不安は決して小さいものではありません。
 2つ目の不良社員の類型はブータレ社員型です。とにかく、四の五の言い訳を並べ立てて仕事をしない。注意をしても、こちらも反省の色は一切なし。悪いのは会社であり、上司であり、同僚であり、自分ではないという確固たるスタンスは揺るぎません。時には似たようなブータレ社員を組織化し、倒会社行動にまで及ぶ。このような社員を現行法制下で解雇できるかといえば、一言で言って不可能です。
 このように、現行の日本労働法制下では不良社員の排除は極めて困難なのです。その希釈化が可能な大企業ならいざ知らず、中小企業にとってはそのような不良社員が会社に居座ることは、会社の存続自体を危機に晒す重大事なのです。

 であれば、解雇規制を緩和して、不良社員を片っ端から排除できるようにすれば問題は解決するのかといえば、そういうものではないでしょう。破廉恥型社員については、発生予防策も限られてはいるものの、ブータレ型社員については、会社がそういう社員を生み出しているという側面も全くないとは言い切れません。ハラスメントが横行する、或いは不公平がまかり通る、社員同士の信頼関係が崩壊しているようなモラルの低い職場では、どうしてもブータレ型社員は増えます。それをただ闇雲に力で排除しても、いわゆる2-6-2の法則で、より悪質なボトム2が誕生するだけで鼬ごっこです。それにパフォーマンスが上がらない社員は他に、頑張ってはいるが実力不足型や、やっているふりはしている型などもいて、前者はキチンと育成をするべきなのであり、後者についても騙されずに正当な評価をすることが大事で、解雇までするのは行き過ぎだと思います。
 問題社員が多いのであれば、解雇より先にまずは職場の体質改善を図り、また採用スキルを上げることも重要だと思います。経験者、即戦力、スキルにこだわり、真面目さや熱心さといった基本的人格を無視した採用をしていれば、それは問題社員だらけのゾンビランドになってしまうのも致し方のないことなのではないでしょうか。

 とは言うものの、日本の解雇規制が現状国際的に見て異常であり、企業、特に中小企業の経営の足枷になっているという側面は否めないのであり、適切な規制緩和をすべきということについて私は賛成です。ただ、そのときに留意しなければいけないのは、よくそういった議論も聞くのですが、くれぐれもアメリカの制度をモデルだなどと勘違いしないことだと思います。アメリカの状況はもはや解雇無法地帯と呼んでも過言ではない状況です。上から下まで年中解雇の嵐が吹き荒れ、半年から1年で多くの人が入れ替わってしまう。よく言えばまるでプロスポーツチームのようですが、それであればパフォーマンス・ベースで解雇されるのかというとそうではない。そもそもアメリカでは社員のパフォーマンス評価というものが日本ほど浸透していません。つまり、社員はみなプロであり、全員当然にプロフェッショナリズムを尽くしているということが前提となっているわけです。その意味では誰もブータレたりはしません。また、破廉恥な社員も稀です。その代わりに、やっているふり社員は非常に多い。解雇はポジションベースで行われます。このポジションいらないなとなれば、どんなにパフォーマンスを出していても簡単に解雇です。唯一例外的に、逆に結果だけで高給をもらえるか解雇かが決まる職種は、セールス。これはこれで非常に極端で、プロセスは一切見てもらえません。スキルは教育で身に着くと信じられているので、学位があればその仕事はできると見なされますから、いきなり責任ある地位が与えられますが、実際はできません。やはり職場でのOJTというのがスキルアップには絶対的に有効なのですが、人がどんどん変わるので教える人もいなければ、職場での洗練された柔軟で実践的なノウハウというものも蓄積されにくい。例外があるとすればエンジニアで、この職種にはまだチームワークとOJT、その組織の独自のやり方というものが残っているように見えます。技術はどんどん新しくなるので教育機関が追いついていけないということが、皮肉なことに好循環を生んでいるように見えます。

 アメリカはアメリカで大きく変わる必要があるのだと思います。日本とアメリカの労働慣行はまさしく対極にあり、どちらも極端で今は制度疲弊を起こしている感が否めない。我々のようなアメリカ系外資系企業というのは、その中で独自のベスト・ソリューションを見出し、世の中に提示していくのも一つの大きなミッションなのではないかと思っています。


代表取締役 CEO 奥野 政樹

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