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オカルトとデジタル

2024年07月01日

 ひょんなことからふと気になって、安藤満の動画を観ました。今から40年程前になるでしょうか。「亜空間殺法」という打ち方で一世を風靡した雀士です。麻雀をやらない方は意味がよく分からないかもしれませんが、雰囲気だけ掴んでいただければ幸いです。亜空間殺法というのは、自分がどうしようもなくツイていない時に無意味な哭き(鳴き)を入れてツモ順をずらし、「流れ」を変えるという戦法です。当時安藤先生はその哭き方についてかなり細かい理論を語られていましたが、正直あまり説得力はありませんでした。今回見た動画では、その成功事例を亜空間殺法を使った場合と使わなかった場合の比較で見せていましたが、まあ、成功事例だけを見ても仕方がありませんし、その哭き方もやはり一貫性や整合性を欠いており、大部分思いつきと思われてしまいます。でも、格好は良い。


 こういう打ち方をオカルト打ちと言います。麻雀というゲームは不完全情報ゲームの代表であり、各プレーヤーはゲームの場における情報の全てを見ることはできません。そのため、合理性を超えた「ツキ」というものが関与する余地が非常に大きい。また、4人で行うゲームで自分だけがいかに、いわゆる正しく打っていても、他の3人の打ち方次第で結果が大きく左右されてしまうという不確実性が大きい。いわばバタフライ効果ですね。そうなると、勝つためには合理性を超えた麻雀の神意を的確に把握し、それに乗っていくことが大事になってくる。これを「流れを掴む」とか「引き寄せる」といい、そのためのオカルト戦略や戦術が真顔で語られてきました。その代表格が亜空間殺法なのです。

 しかしこの亜空間殺法ですが、実際にやってみるとまず上手くいきません。やはり、ただでさえツカンポで手が入っていないときに無意味な鳴きを入れるということは自分の得点チャンスを犠牲にし、しかも手牌の数を減らして振り込みのリスクを高めるだけでいいことはありません。大体が裏目に出ます。まあ、安藤先生に言わせればそれは亜空間を支配できていないということになるのでしょうが、結局自分の弟子である二階堂姉妹も亜空間殺法はやりませんから、これを理論化することはできなかったということでしょう。

 20年くらい前からでしょうか。まさにこの二階堂姉妹の世代の雀士たちが中心となり、オカルト打ちの否定、すなわちデジタル主義が台頭しました。流れというものを一切無視して、確率論的に得点効率の高い打ち方をすることを是とする主義です。確かに一理あるのですが、ただ、麻雀というゲームの本質は先ほど書いた通り不完全情報のもとの不確実性ですから、最も得点の期待値が高く失点の期待値が低い打ち方を模索したところで限りがあるのです。結局デジタル派は、桜井章一というオカルトの神様が主催する雀鬼会の会員達に叩きのめされることとなりました。つまり、不完全で不確実な世界でデータ分析に特化したところで、かえってバランスを崩してしまうということではないでしょうか。

 スポーツの世界でも、これと似たようなことがこの30年程で起きています。例えば野球に関して、日本ではここでもやはり「流れ」というものが重視され、「あの一つのミスが、試合の流れを変えた」などという解説がよくなされますが、これ、米国人には全く意味が分からないそうです。しかし、その米国MLBでも、20年程前にいわゆるオークランド・アスレチックスのGM、ビリー・ビーンによるマネー・ボール革命というのが起きました。お金のない貧乏球団であるアスレチックスは有名な選手を取ってくることはできません。そこで、データ・アナリストを採用して野球のデータを解析したところ、意外なことが分かりました。野球で一番点数が入る確率が高いのは、ランナーをためてのホームランであるということです。それまでの常識では得点というのはヒットエンドランやバントを絡めて人為的に紡ぎ出すものだというものでしたが、アスレチックスでは盗塁もバントも禁止となりました。これらはアウトになるリスクの割に得るものが少ないという結論が出たのです。それよりもフォアボールでランナーをためて、ホームランで返す。これが一番得点確率が高いわけです。投手も、初球がストライクである場合の打者がアウトになる確率がボールの場合よりはるかに高いことが分かった。そこでアスレチックスは低予算での中で他チームは評価しない、安打数は少なくてもフォアボールが多くて出塁率が高い選手や、スピードボールはなくアンダースローのように変なフォームだがコントロールが良い選手を集めました。その結果、予算は著しく少ないにも関わらず毎年プレーオフに進出していました。

 今では、MLBにおけるデータ主義の浸透はとどまるところを知らず、投手の配給は勿論、守備位置から選手起用、作戦まで、すべて膨大なデータの分析に基づき行われています。なんでも、究極は人間が一切判断しなくてよくなるのが理想なのだそうです。しかし、その割には非合理的だなと思うことが少なくありません。例えば、大谷などのホームランバッターを多くの球団が打順1番に起用しています。理由は単純で、なるべく多くいいバッターに打順を回したいからだそうで、それ自体は私も子供の頃に王選手に1番を打たせた方がいいのではないかと思っていましたから、納得はできます。しかし、そうであれば7、8、9番といった下位打線に出塁率の高い選手を置くべきではないでしょうか。現状はそうはなっていません。やはり、ここには打力がやや劣る選手が置かれている。スポーツの世界のデータ分析も一体どの程度の効果があるのか、私は疑問に思っています。

 翻って我らがビジネスの世界ですが、米国ではやはり、究極人間がなにも判断しなくていいオートメーション化を目指しています。特にそれが顕著なのは、セールスの領域に於いてです。これは麻雀と似て不完全情報のもとの不確実領域であり、流れというものが確かにあるように思うのですが、こうした非合理的要素を一切排除し、受注までのプロセスを細分化して、KPI化し、それを達成することを各プレーヤーに求めるという手法が、もてはやされています。つまり、次に電話は何件かけろ、アポは何件獲れ、みたいなやり方で、それを管理するプラットフォームを提供する会社が世界の超優良企業となりました。

 そしてこの傾向は確実に日本にも流れ込んできています。その結果どうなったか。日本の営業は地に落ちた。私は、そう思っています。毎日、KPIをこなすためだけのやる気のない電話が次々とかかってきます。こちらからの質問には答えないし、メールにも返信してきません。恐らく日本の販売力という点では、ここ20年くらいで大幅に低下したのではないでしょうか。それでも、管理者にとってはこちらの方がいいのです。KPI管理さえしていれば、売れなくても自分の責任にはならないからです。流れなどを読んで自分の判断を繰り返していたら、いつどこで足元をすくわれるか分かったものではありません。しかし、本当にこれでいいのか?みなさん、もう一度、亜空間殺法の動画を見直してみようではありませんか。


代表取締役 CEO 奥野 政樹

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