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かっこよかったですね!
2024年03月01日
先週の日曜日、2年ぶりの私のピアノ発表会が終わりました。昨年は娘の大学受験の真っ最中で人混みには行くなとのことで欠場、連続出演記録は途絶えましたが、今年、懲りずに復活です。思えば、その娘が4歳あたりのときに一緒に始めたのです。というのも、娘が先生との2人きりでの異常空間が怖かったのか、とにかくレッスン中落ち着かない。ピアノそっちのけで、保育園や家庭での出来事などをずっと喋っているかと思うと、やおら立ち上がると、教室中を「ランラ、ランラ」と歌いながらスキップで周回しだしたりします。普段は極めて落ち着いた子だったので、余程のことであろうと思い、「お父さんも一緒にピアノ習おうか」ということにしたのです。
それで、娘の方のレッスンはすっかり落ち着き、ピアノの腕も随分と上がりましたが、こちらは大変です。とにかく、ピアノの鍵盤など触ったこともなかったのですから。そのうち先生も変わって凄く怖い先生になった時期もあり、娘には優しいのですが、私には毎回かなりムキになって、NGワードを連発してくるわ、そもそも音楽的なことは何を言っているのか分からないわで、レッスンが終わるたびに汗びっしょりの放心状態という時期もありました。そのうち娘も高校生になると部活やら何やらで忙しくなってピアノは引退、今や私が一人取り残されているという状態です。
ピアノ発表会というのはピアノ教室の大人の生徒のためのもので、年に1回、まあ、「出ますよね」的な当然感の下、初めから毎回出演しており、本来、人前でピアノを演奏するなどと言うことがあってはならない人生を送ってきていた私にとって、最初あのとても高級なグランドピアノの前にスポットライトを浴びながら座った時は文字通り鍵盤が歪んで見えました。そしてそのときの演目が尊敬するBoss、矢沢永吉の「時間よ止まれ」だったわけです。結果は惨憺たるもので、終わった後の先生の顔が引き攣っていたような気がするし、見に来ていた家族はその後決して来なくなりました。その代わり、普段偉そうにしている社長の鬼の首でも取ろうというのか終わった後の打ち上げで楽しいお酒を飲もうというのか、ポツポツと当社の社員が見に来るようになり、今は会社の年間イベントの一つのようになっています。
何回出ても技術的にはまったく進歩を見せませんが、まあ、モーツァルトだ、ベートーベンだ、ショパンだ、とクラシックを弾く人が圧倒的に多い中で、毎回私の演目がちょっとおかしかったり、なぜか国際性溢れる応援団がいたり、ちょこちょこ、「あの人、面白いね」的な反響をいただくことなどもあるようになってきて、こちらもそれを少し狙うようになってきました。特に2年前は、自分で作った当社社歌「地獄の淵でRock Us Baby!」をやったので、教室内でも、「あのオリジナルやった人」ということで結構話題になったようでした。 ということで今年の演目ですが、再びBossの「止まらないHa~Ha」。この曲、ずっとやりたかったのです。しかし、ピアノ楽譜がどこを探しても見当たりませんでした。ところがダメ元で久しぶりにググッてみたら、どこかのYouTuberが楽譜付きでネットにあげてくれているではありませんか。一も二もなくそれを購入して先生に提出、練習開始という運びとなったわけです。
ところで、これがどういう曲かということですが、まずその前にBossの曲というのはカバーするのがとても難しい。少なくとも私はそう思っています。一応、カバーアルバムもあるにはあるし、ネット上で結構な大物歌手がカバーしたものも公開されていますが、どれも、なにかコミカルになってしまっています。音楽的なことはよく分かりませんが、多分Bossには独特のグルーヴがあり、また、歳を重ねて来てからの声質の深みが凄く、その二つを欠くとお祭り音頭や演歌チックになってしまうのだと思うのです。
この「止まらないHa~Ha」はその最たるもので、まずメロディーも歌詞も素面で聴いたら相当に馬鹿げています。Boss自身からして、発売当時のミュージックビデオは少々いただけない作りになってしまっている。しかしそれが時を経て、今やBossだけが歌いこなせるThe Yazawa Songに昇華しており、ライブのアンコールでこの曲に合わせて会場を彩るタオル投げが、これまたThe Yazawaシーンとして世に知れ渡っています。でも私はカラオケで絶対にこの曲は歌いません。間違いなく、お祭り音頭になるからです。
それをピアノでやろうというわけです。音数がさほど多いわけではなく、リズムもずっと
基本16分で刻んでいくだけですから手の運びがさほど難しいわけではなく暗譜にもそれほど時間はかかりません。しかし、やはりどこか音頭っぽくなってしまいます。歌詞がなければ大丈夫かなとも思ったのですが、やはりそう甘くはありませんでした。ピッチを変えてみたり、リズムに変化をつけてみたり、いろいろ工夫して見たのですが、やればやるほどおかしなグルーヴになっていきます。更に本番一週間前に衝撃の事実に直面しました。試しにBossのライブ映像に合わせて弾いてみたのですが、Bossの歌はとてつもなく遅いのです。「え、こんなに遅いの?」なのに、この疾走感はどうして出るのでしょうか。Bossの凄さを改めて痛感させられる一方で、こちらは本番を控えて焦るばかり。このスローなピッチで弾いた場合、これはもはやロックンロールではありません。明らかに亀の行進曲です。
いよいよ、当日朝。開演は17時45分。緊張感が高まっていく中、朝から一回弾いては、何か他のことをやって、でもまた落ち着かなく、ピアノの前に戻って、を何度も繰り返します。弾けば弾くほど緊張は高まっていくだけなのに。いざ演奏会場に向けて出発となりましたが、駅でいくら探してもスマホが見つかりません。やはり心が芯のところで震えているのでこういうミスを犯してしまうのでしょう。これだと時間もわからないし、社の応援団に予約してもらった打ち上げ会場へ辿りつけそうもありません。仕方なく、原宿の駅からうろ覚えの打ち上げ会場のお店を探しながら歩いていたところ、あろうことか勝手知ったる演奏会場の方が分からなくなってしまいました。いわゆる迷子です。表参道の駅まで来てしまっているので「通り過ぎちゃってるんだよなあ」とフラフラしていると、応援団の一人の当社50歳法務担当の間庭さんに救出されました。時間的にも遅刻寸前です。
いよいよコンサート開始。手にはじっとりと汗が滲んでいるし、毎回のことながら「最初の音ってファだったかな、ミだったかな」という不安が押し寄せてきます。「なぜ確認して来なかったのか」という後悔と、鞄から楽譜を取り出して暗い中見えない目でも必死に確認すべきなのかの究極の選択に迷っていると、「次は、奥野政樹さん。曲は矢沢永吉、止まらないHa~Ha」とコールされてしまいました。
すると会場から、パチ、パチ、パチと拍手が聞こえます。「え、他の演奏者にこんなのあったっけ?」「あ、応援に来てくれた社員達か?」目の前に聳え立つ威圧感たっぷりの大きなグランドピアノに向かう数メートルの中で、そんな思いがどこか頭の遠いところでこだましていました。
最初の音はファでした。まあ、思ったよりは手は動きます。ただ、乗れているかといえば、とてもそういう気分ではありません。4分ちょっとくらいの演奏ですが、もう中盤からクタクタです。最後は体力切れして、間違えて弾きなおし。「あーあ」というがっかり感に打ちひしがれながらの降壇です。7割位の出来でしょうか。まあ、こんなところだと言えばそうなのですが、なにかちょっと納得いかない感は否めませんでした。自席に帰る途中、応援団と目が合いました。笑っていたので、まあ、楽しんではくれたのかなとは思いましたが、最後の失敗がなんとも悔やまれます。
コンサートの途中で休憩があり、先生と応援団が声をかけてくれました。なぜかに、皆やや興奮気味で「凄く良かった」と言ってくれます。なんとなく、本音っぽくも聞こえるのですが。まあ、なにせ皆身内ですから、やはり大筋お世辞であろうと冷めた心で聞いていました。
ところが、コンサートも終わり、先乗り組が待つ打ち上げ会場に移動しようとホールの外に出た時に、思いもかけないことが起こったのです。なんと、見ず知らずの先生から「かっこよかったですね!」と話しかけられたのです。「え、ほんと。お祭り音頭になってなかった?」「矢沢永吉、知ってますか?」「この曲はですねえ」次々とお話したい事柄が頭の中で花開いていきましたが、財布を持つ私を打ち上げ会場に確実に連行するという重大ミッションを負った居残り応援隊にがっちりと両脇を固められ、恥ずかし気な笑顔だけをその見ず知らずの先生に残し、その場を立ち去ることとなったのでした。
代表取締役 CEO 奥野 政樹
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