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修正力

2017年03月01日

今年も2月の最終日曜日がやってきまして、恒例の「大人のピアノ発表会」がありました。今からもう7、8年前、まだ幼かった娘がピアノを習い始めた時に怖がってレッスンにならなかったので、「じゃあ、お父さんも習うよ。」と私も一緒に始めたのですが、今では、すっかり上達した娘に「ねえ、なんで同じ年数やっているのに、そんなに下手なの?」と日々馬鹿にされる始末。それでも先生から「出て欲しい」と頼まれるもので、無下に断ることもできず、毎年「大人の発表会」に出演し、その惨状を皆様にこのニュースレターでご報告してまいりました。それが他人事としては至極面白いようで、最近では「そろそろ、またピアノですね」とわざわざ注意喚起してくださる方も増えており、やめたくてもやめられない状況になってしまっています。

 2月末の発表会に向けて、前年の夏くらいから曲を選び練習を始めるわけですが、少しでも私に恥をかかせまいとなるべく易しい曲、それもご自身が馴染みのあるクラシックを勧めたがる先生と、どうせ恥をかくならと難易度に関係なくロックやポップスを選びたがる私の間ですれ違いがあり、最初の頃こそ結構深刻な対立にもなりがちでしたが、最近はお互い間合いを計りながら穏便に駆け引きができるようになりました。

ということで今年の曲目は「ひまわりの約束」、映画ドラえもんの主題歌にもなった秦基博の作品です。最近息子がバンドをやっていたり、娘も色々な新しいJ-POPを聞いたりしている影響で、私もそちらに‘造詣が深く’なっており、本当は発表会に参加する層は誰も知らないような最新のロック、例えば娘がファンのユニゾン・スクエア・ガーデンあたりをやりたかったのです。ところが楽譜がとてつもなく難しい。娘には「いくら打たれ強い田淵でもお父さんが弾くのではあまりにもかわいそうなので絶対にやめて」と徹底抵抗された上、楽譜を見た先生からも「無理ですね」と即刻却下されて諦めました。

 そこで去年の夏に家族で見に行ったJ-WAVEライブで聴き、その頃印象に残っていた「ひまわりの約束」で妥協しました。楽譜は初級・中級・上級の3種類あり、コードを原曲から変えてあり黒鍵なしで弾ける初級を先生は強く勧めていましたが、やはり原曲のキーは譲れないということで、中級でなんとか許可をもらいました。少々意外だったのは、クラシックしか聴かないと思っていた先生が、昔は秦基博のコンサートに行ったことがあるとのことで、この選曲自体は例年になく嬉しそうだったことです。

レッスンが始まり、思ったより指の運びやリズムの合わせ方が難しく、不安を抱えたまま月日は過ぎます。年末あたりからは、中学受験準備で少しピアノ教室を休むことになった娘のレッスン時間をもらって特訓に入ったこともあり、2月に入ったころからなんとか形にはなってきましたが、どうも、ノーミスで弾けるということが一度もありません。そのようなあやふやな状況のまま、あっと言う間に本番前日となってしまったのですが、こうなると例年と同じく私も情緒不安定となり、3回に1回くらい、ひとつ音をはずしたことなどをきっかけに全体がバラバラになってしまうという怪現象が起きてしまいます。毎年の事とはいえ、その結果、実際に本番にこのバラバラで出てしまって先生を大落胆させてしまうという確率がこれまで約5割なわけで、いつものことでは片づけられない深刻な状態です。

なんとかしなければならない。そこで今年は考え方を大きく変えてみました。所詮、私の実力で本番にノーミスなどはありえない話なのです。特に今年は、本番前日になっても未だノーミスの演奏は一度もできていません。であれば、ノーミスにこだわるのはやめよう。それよりも、どんなミスが起こってもその後がバラバラにならないように修正力を高めていこう。そう方針転換したのです。

 ミスの後、同じ箇所を弾き直したりせずに何とか立ち直って最後まで弾き切る。それを意識して練習を始めました。つまり指が鍵盤から落ちたとか、クロスさせる指がもつれたとかの様々なパターンを想定し、どんな状況でもパニックにならないようなトレーニングです。とは言っても、なかなかそうしたミスを意識して練習できるものでもありません。そこで結局、アルコールの力を借りることにしました。ワイン、焼酎、ウイスキーと飲み進むうちに、確かにいい具合に指の動きが頭の意識からズレるようになり、いい感じで(?)ミスをするようになりましたが、飲み進むうち遂には鍵盤が揺れるようになり、そのまま椅子から倒れ落ちるように寝てしまいました。

本番当日、目覚めるとすこぶる二日酔いでした。東京マラソンを見ながら、最後の調整とばかりに10回ほど弾きましたが、相変わらずミスが出ます。それでもなんとかバラバラにはならずに弾き切りました。とても自信とまではいきませんが、とにかく弾き切る、その決意だけを胸に発表会会場へと出発。

 会場に着くと、今年はただでさえ参加者が少ないうえに、何が理由なのか4人も欠場とのことで、すぐ順番は回ってくるらしい。私の前の人も欠場とは思わなかったので、次の次かと思って待ち椅子に向かったら、座るやいなやすぐ演奏となり、少し慌てました。それでも今年は会社からの応援団も複数名来てくれていることもあり、緊張は感じないのですが、やはり心の奥底が震えているのでしょう。指の動きが無意識に遅れます。これはまさしく、昨晩飲み出した頃と同じ状況です。何ヶ所かつかえましたが、なんとか音楽としての体裁は失わない形でフィニッシュとなりました。

 会社のみんなはもちろん「よかった」と言ってくれましたが、先生からは開口一番「足が動いていませんでした。残念でしたね。」と講評をいただきました。足…?すっかり意識が飛んでいたのと、そもそも二日酔いでろくに動かないのとで、演奏後どうしていたのか記憶にありません。おそらくはペダルを踏みっぱなしにしてしまい、音が相当に反響していたのだと思います。

演奏結果は満足とは言えなかったものの、今後に向けてよい調整方法を見つけました。酒で平常心を失わせることであえてミスが発生する状況を演出し、それを乗り切る想定訓練。来年は、二日酔いにならない程度に更に精度を高めた調整を行いたいと思います。

代表取締役CEO  奥野 政樹

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