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ノートをとるな!

2017年02月01日

社員2名が1日コースのビジネス法務講座を受講に行くとのことで、前日に二人で話しているのが聞こえてきました。
「録音できるといいんだけどねぇ。」
「禁止らしいですよ。」
それを小耳にはさんだ私はすかさず横槍を入れました。
「録音なんてもっての外。ノートもとってはいけないでしょう、普通。」
驚く二人。「なんでですか?そんなこと案内には書かれていませんよ。会社のお金を使って行くのだから、しっかり勉強して来ないといけないじゃないですか。変なこと言わないでください。」
 変なことどころか、自らの経験上極めて当たり前のことを言っているつもりの私は、良識の皮を被った反論にひるむことなく以下のような正論を展開しました。

まずこの講座に二人が参加する目的は何か。それは、ビジネス法務に必要な知識やスキルを獲得することではありません。知識であれば、講座になど参加しなくてもいくらでもネットで調べられます。ネットの情報が信用できないというのであれば、私に聞けばいいわけですし、それも当てにならないというのであれば当社の顧問弁護士に聞けばいいのです。一方スキルだって、たった一日弁護士の話を聞いたぐらいで身につくわけがありません。実地の経験を地道に積んでいく他に方法はないのです。

何事もそうですが、初心者にとって前に進むために一番の障害になること、それはまず知識の遣い方がわからないことです。山のようにある情報の軽重がつけられない、またそれをどのように現実に適用していったらよいのかがわからないわけです。そして次が、いくら経験を積んでも、その経験から何を学べばいいのかの勘所がわからない。人に助けてもらいながら何やら確かに成果は出た。しかしそれは言われるままにやったからできただけであり、一人でやれと言われたらとてもできる自信はないし、それがいつかは自信が持てるようになるという保証はどこにも見当たらない。そんな悶々とした状態が続くうちに多くの人が「やる気」を失い諦めてしまいます。
 必要な知識を得るための情報もスキルを得るために経験をするための機会もふんだんにあるのに、それを活かし切れない。なぜこういう状況が起きるのでしょうか。それは、修得対象となる物事の本質についてコアとなる感覚が学習者に欠如しているからです。そして、このコアとなる感覚というものに絶対的正解はなく、また各人にとってもそれは一つの筋の通った信念というものではありません。こういう感覚は個々人で違うものですし、またいくつかの感覚の緩い結合といった、形のあいまいなものであります。しかしそれでも、その人にとって確かにこの感覚があれば、それに従い、情報を取捨選択し、評価し、判断することができるようになるはずです。更にこれを繰り返して経験を積むことで、自らに返ってくる世の中のフィードバックを参考に適宜この感覚を深めていけば、自ずとスキルは付いてくることになるわけです。 

こうした感覚は各個人に固有のものであり、特定の個人に教わって作れるものではありません。いろんな人がいろんなことを言う、そういう環境の下で自ら閃きを得て形作っていくものです。また、そうした感覚は経験を積むことで深まっていくわけですが、その経験をひとりよがりに主観的に解釈していては使える感覚は身に付きません。それではご都合主義のわがままな感覚が身に付くだけです。経験は客観的に分析しなければならない。指導者というのは、この経験の客観的分析を手助けするためにいるのだと私は思っています。

そこで今回のビジネス法務講座ですが、これは経験をするべき場ではないので、他人の話を聞いて自らの法務の本質に対する感覚を磨くための「きっかけ」を感知すべき場です。繰り返しになりますが、決して知識やスキルを身に付ける場ではないのです。一日講師である弁護士の先生の話を聞いて、1つでも2つでも「え、そういうことなの!?」という閃きがもらえれば、それだけで会社がお金をかけた以上のリターンはもう十分に返ってきています。それは例えば、「え、法務は論理的じゃないといけないというけど、それってまずは、法律や契約書の条文をここまで馬鹿正直に字面で読むことなの?」とか「なんと慰謝料って、悲しい思いをさせたことに対する損害賠償とは!悲しい思いに値段があるんだ~」ということなのですが、こういうことを講師というのは意外にさらっと当然のことのように言うので、ノートをとるなどと言う作業に夢中になっていては、大事なことを感じ取り損ねるということになりかねません。ノートなどとらずに感覚を研ぎ澄ませていなければいけないのです。聞く方が感覚を必死に研ぎ澄ませているところに、その感覚にまったく響かない話が続くとどうなるでしょうか。そういう時人は眠くなります。そうなってしまった時に、その眠気を覚ますためにノートをとるなどという暴挙に出るぐらいなら、ウトウトと心地よい軽睡に入った方がずっと研修効果が出るというものです。ウトウトと夢見心地のうちにも、潜在意識の中で講師の話は聞こえています。そうした状況下において、講師の何らかの言葉で急遽その眼りから覚めて我に返る瞬間があったとしたら、それこそが「今日の一言」、受講者の感覚形成に多大なる貢献をする金言なのです。

 

代表取締役CEO  奥野 政樹

 

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