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人間とチンパンジーとAIの意識
2016年10月20日
人間とは何か、AIとは、というお話を先月末にセミナーでお話しさせていただきましたが、関連する今月の最新情報として「チンパンジーは『考える』ことを考えることができる」、というお話がありまして、「意識」とは何か、をさらに考える契機となっているようです。
最新の研究結果によると、チンパンジーはmegacognition(メタ認知)能力を持つそうです。これは「自分が考えている」ことを認識できるかどうか、を意味します。自分が考えていることを客観的に、相対的に認識できるかどうかは「意識」のなせる技で、つまり人間もチンパンジーは「他の人間や猿が考えていること」や「自分が考えていること」を概念として認知し、それを活用して「自分とは何か」を考えるに足りる知恵を持っているわけですね。ただし人間とは違い、猿が自らの存在意義に悩んでいるかどうか、はわかりません。人間だって悩んでる人もいれば悩まない人もいます。
一方で、AIはまだ意識を持たない「思考マシン」にすぎず、特定分野ののごく狭い思考方法(例えば囲碁の勝ち方)を再現することしかできません。まあ現役将棋棋士が対局中に利用しているんじゃないか疑惑も出るくらい、そのピンポイントの思考能力は人間を超えつつありますけれども、所詮「このパズルの解を導け」という指示に従って思考することしかできませんし、実際にその思考が人間の思考に似ているかどうかもよくわかりません。おそらく似ていると思われるだけです。自発とか「創発」とか言われることもありますが、自らのハードとソフトを利用して問題を提起することは未だできないのです。
これは、人間や猿(霊長類)といった生物が「生き延びる」という進化により知性を獲得してきたのに対し、機械が生きる目的ではなく「思考」のみを模倣しているからだと考えます。人間や霊長類は「誰かと一緒に行動しなければ死ぬ」という恐怖や「誰かと交わりたい」という欲求に基づいて行動します。霊長類は全般に、特に人間は頭部が柔らかいうちに、まだ自力で生存できない状態で産まれる特異な哺乳類であり、育児のために本質的に社会的な行動が求められる動物で、社会的に行動するためのツールとして意識が発達したと考えられています。一方、AIは「充電しなければ死ぬ」という恐怖も「充電したい」という欲求もなく、社会的な行動が求められるわけではありません。つまり「意識」も「知性」も必要ではなく、「思考」が人間のためのツールとして必要だっただけです。この方向性で進歩するAIは所詮「与えられた入力に出力を返す」だけの装置であり、「入力に対して意識を持っている人格として返す」模倣を行なうにすぎません。真の意識を得るには、それこそアーキテクチャの変更が必要になるかもしれません。
現在、人間の意識を模倣することができるかできないかという議論や知性を持つAIの社会への影響が議論されることもありますが、AIについて、チンパンジーのような「人間と同じような、理解できる知性」を当然想定しています。シミュレーションとして誰かの人格を移植するのであれば、そしてもし宇宙すらシミュレーションならば、人間の意識のシミュレーションなど簡単なはずですし、理解できる知性シミュレーションが獲得できるはずです。我々だってシミュレーションの中にいる存在なのだとしたら、我々が作成したシミュレーション内のAIにも人権を認めるべきだと思います、と、人類(や霊長類、もしくは哺乳類)の知性を基にした議論となるでしょう。
しかしアーキテクチャとして異なる「欲求も恐怖もなく、生物でもない」機械にシミュレーションではない知性や意識を芽生えさせようとする時、その意識は人間が「意識」と認識できるものなのか、というところも議論になる、もしくはSFのテーマやネタになるのではないかな、と思っています。チンパンジーなど人類と同じような意識を持つことが予想されますが、酷寒の星に住むシリコン超伝導体生物(?)の意識がどんなもので、果たして人間に理解できるものなのか、というSFにも似ています(「スロー・バード」に収録されてた気が)。むしろ昆虫に意識や知性が既に存在しているのに、その意識を人間は理解、把握、認識することができない、というSFホラ話の方が近いかもしれません(「恋人たち」でしたか)。
AIがシミュレーションではない、本当の意識を持てるか、持たせるか、持たせるべきなのか、という議論の先に、いつか機械が持つ意識が、我々が知っている猫型や十万馬力のような「中の『人』」がいるかのようなものになる保証などないことを理解し、異質の知性や意識、人間に理解できない、認識できない可能性を想定してみるのも面白いでしょう。より深く、人間とは何か、人類とは、生物とは、という質問への答えにも繋がるのではないでしょうか。
まあ、そういうことを考えられるのが知性なのか、つい考えてしまう惰性なのか、そういうメタ認識能力を持つ霊長類の特性なのか、はたまた人間の中でもこういう形而上をつい考えがちな夢想家の妄想なのか、は、チンパンジーは存在意義を考えるのかを知るのと同様、結局はわからないことだとも思うのですけれども。
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